ブローダービズ株式会社について
AI活用の推進を行うAIイネーブラー / AIインテグレーターとしての役割を自らのビジネスの中心に据え、社会に役立つAIの普及に向け、各種のソリューションを提供するブローダービズ株式会社(以下、ブローダービズ)。過去20年以上にわたり、Webや画像処理などに関わる最新技術を、国内外の企業にソリューションとして提供してきたメンバーが中心となり、画像解析技術の実装と活用のための事業立ち上げを目的に、2017年7月に同社を設立。基礎研究としてのAI技術の追及に留まらず、システムインテグレーターとしての実業務への適用を通じて、働く人々に貢献できるAIの創造を目指している。
食の安全を守るため、従来の手段では把握が困難だった「人」の時系列な行動を把握する
近年、食品業界では、異物混入や悪意の薬物混入などの事故・事件が発生しており、大きな問題となっている。また同様に、働く人々の安全確保も重要なテーマとして挙げられる。このような事故・事件の発生を未然に防ぎ作業の安全性を確保するために、従来は、管理者が担当者の作業の流れを見ながら、進行状況や問題の発生を捉えた上で対処を行ってきた。最近では、ビデオ映像として作業状況を録画するといった対応も行われてきている。
しかし、このような従来のアプローチには、以下のような課題がある。
- 長時間にわたる工場作業を、管理者の目のみによって監視し続けることは容易ではない
- 担当者は、制服、帽子、マスクを着用しているため、見た目だけでは個人の特定が困難
- 定量化された数値などによって状況を把握・記録することができず、過去と照らし合わせることも困難
- 録画されたビデオ映像は、問題が発生した後の証跡として利用できるが、瞬時の対応には不向き
ブローダービズが着目し検討を開始したのは、このような人手による作業を、AIを駆使したシステムによって“見守り”、担当者の姿勢やある時間内での行動を、数値化された統計値との比較し、通常の行動を逸脱した異常事態の発生を瞬時に判断することで、トラブルの拡大を未然に防ぐという仕組みの実現だった。
ブローダービズCOOの青木誠氏は、「従来は、人が見て監視・管理してきた作業担当者の行動を、数値的な管理のベースを作って定量化された明確なものにすることが重要と考えました。」と話す。この取り組みは、食品偽装や働き方改革という大きな注目が集まる課題をテーマとしているため、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の共同開発支援事業として認められた。
データ収集から、解析、可視化、通知に至るまで、一気通貫で実現できるElasticを選択
2018年8月、「AI映像解析による労働環境見守りシステム」と名付けられた今回のシステムを構築するために、その構成要素となる技術や具体的な製品の検討を開始したブローダービズだが、特に課題となったのは、時系列なデータから正常な作業行動をパターン化できる機械学習機能だった。以前からElasticsearchやKibanaを活用してきたElasticユーザーだった同社では、他社のBIツールなども含めてElastic製品の評価を開始。結果として多くの面でElasticの優位性を見出すこととなった。
「以前からElasticsearchについては知っており、ダッシュボード機能としてKibanaも使用していました。Machine Learning機能が提供されているため、他社製品も含め採用候補として検討を行いました。特に大きな優位性となったのは、他のデバイスやシステムとの容易な連携が可能な点と、それも含めて実現される高い開発効率、さらにデータの収集から集計、解析、視覚化、通知(連携)までを一気通貫で実施できる幅広い機能が提供されている点でした」(青木氏)
今回のシステムには、作業現場の映像を撮影するAIボードが搭載された監視用IPカメラや、これに連動するエッジデバイス、映像・画像などを蓄積するストレージを含むエッジデータ管理システム、さらに情報管理や可視化のためのクラウドシステムなどがある。これら複数のデバイスやシステムと連携するためには、高い接続性やオープンなアーキテクチャーが不可欠となるが、Elastic Stackはこれらの要件を全て満たすことができる。当然、個々の機能を持つ製品を採用して、これらを通常の開発やインテグレーションの手順で組み合わせた場合に比べ、各段に高い開発効率を実現することができる。さらに、Elasticsearch、Kibana、Machine Learning、Alertingなどを使用することで、エンドツーエンドでの包括的な機能を実現することが可能となる。こうして2018年10月、Elastic Stack採用を決定した同社では、導入プロジェクトを立ち上げ、2019年2月にはElastic Stackを含めた新システムの実運用を開始した。
Machine Learningを活用し、時間軸と行動パターンから時系列データをモデル化
AI映像解析による労働環境見守りシステムでは、工場内に設置されたAIボードが搭載された監視カメラとGPUを搭載したエッジデバイスによって、画面の中で動いているそれぞれの作業者にユニークなIDが振られる。次に鼻、首、腰の3点を把握し、骨格を推定すると共に、その骨格座標と姿勢のパターンをマッチングさせることで、それぞれの担当者がどんな姿勢をしているかという点を判断。この段階で著しく不自然な姿勢が数秒にわたって検出された場合には、フラグを立ててインシデントとしてアラートを送信する。インシデントはMQTTプロトコルの通信を使ってJSON形式のデータとして送信され、同じく工場内に配備された管理用のエッジサーバー経由で、情報管理および可視化のためのクラウドシステムに送られる。
瞬間的な姿勢を取らえたこの1系統の流れの他に、作業を時系列に捉えるもう1系統の流れがある。こちらは、定常作業として繰り返される作業者の動きを、骨格と姿勢データで捉え、時間軸と作業パターンという視点で蓄積し、ElasticのMachine Learning機能を使った機械学習によってモデルを生成する。データの投入を開始してから1ヶ月程度で、自動的にモデルが生成され、その後このモデルとの比較によって、通常の動きを逸脱した異常な状況、例えば規定外の手順や異物の混入、さらに不正な立ち入りなどが発生した場合には、インシデントとしてアラートを上げることができるようになる。
容易な導入と運用。そして時系列データによる行動分析で期待した異常検知を実現
Machine Learningを含むElastic Stackの導入効果について、青木氏は、「それぞれの機能ごとの接続のインテグレーション、たとえばDBとMachine Learningの接続を考えた場合、通常はそれぞれのI/Oを確認・検討するなどの対応が必要になり、当然作業負荷が発生しますが、ワンパッケージで統括的な機能が提供されているElastic Stackの場合には、このような考慮や対応が一切不要です。また、機械学習によって時系列な作業の流れを自動的にモデル化することができた点は、手作業による運用負荷の低減という意味で大きな導入効果でした」と強調する。また、時系列データによる行動分析と異常の検出、そしてインシデントをアラートとして送信するといった今回のシステムのおけるコア機能についても「当初期待した通りの形で実現できました」と話す。
ワンパッケージで機能が提供されているElastic Stackでは、機能間の接続に関わる考慮や対応が一切不要で、また、機械学習により 人が介在することなく自動的にモデル化ができます。このように、 導入・運用負荷を低減しつつ、期待通りの形で時系列データによる行動分析や異常検知を実現できたことは、大きな導入効果でした。
さらに青木氏は、本システムを導入した企業が享受するメリットという視点から、「AIを使って作業担当者の行動を数値化して蓄積し、後から振り返ってもその動きや状況を把握できるようにすることで、異常な行動を検知したり、問題発生時の原因追及が容易になるだけでなく、導入企業にとっては『会社としては、問題ない運用を行っていた』と証明するものにもなるのです」と強調する。
Elastic Stackを最大限に活用しながら、システムの横展開を推進
今回のシステム開発において、Machine Learningを含むElastic Stackのメリットを十分享受できたブローダービズでは、今後発生が予想される本システムの横展開においても、Elastic Stackの活用を積極的に考えている。「今回は食品会社の工場向けのシステムを開発しましたが、担当者の作業が定型化されている業務については横展開が可能です。たとえばフランチャイズ店のキッチンでの作業などの“見守り”にも適用することができると考えています」(青木氏)。
システム構築におけるブローダービズのアプローチでは、複雑なセンサーの設置など大きな導入負荷をかけることなく、映像から現場の状況を把握することが可能となっている。また、場合によっては既存のカメラを活用して映像を、より少ない初期コストでシステムを実現することも不可能ではないため、実際に適用できる対象は多岐にわたる。
最後に青木氏は、「人手による作業の“見守り”にあたっては、瞬間の判断と時間軸を追った判断という両翼が必要となりますが、今回、Elastic Stackによって、時間軸を中心とした対応という片翼を実現することができたことは、今後のブローダービズのビジネスの展開においても、非常に重要な一歩であると感じています」と強調した。
AIを駆使し、お客様が抱える様々な課題へのソリューションを提供し続けるブローダービズ。その取り組みを支える1つの重要な要素として、Elastic Stackは今後も最大限に活用されていくだろう。