アイアクトについて
1999 年、設立。前身は UNIX システムベンダー。インターネット黎明期から Web コンテンツ 制作、Web インテグレーションなどを手掛け、数多くの実績を有する。近年では AI(人工知 能)やコグニティブ技術のデジタルコミュニケーションでの活用推進にも積極的に取り組む。 https://www.iact.co.jp/
インターネット黎明期からの Web 企業、AI・コグニティブ関連の事業に注力
インターネット黎明期の 1990 年代から Web サイトの制作、Web システムのインテグレー ションなどを数多く手掛けてきた株式会社アイアクト。大手企業・有名ブランドの Web サイ トを中心に豊富な実績を有するだけでなく、技術的にも先駆的な挑戦を数多く行っている。 近年では、AI(人工知能)やコグニティブ技術をデジタルコミュニケーションに活用する取り 組みを進めており、IBM のコグニティブ・コンピューティング・システム「IBM Watson」を利 用した AI チャットボットサービス「Cogmo Attend」を中心に、独自のサービス群を展開していることで注目されている。
Cogmo Attend は Web ブラウザでの利用に加えて、LINE や LINE Works、Microsoft Teams、Google Chat といった各種チャットサービスをユーザーインタフェースとして利用 でき、ボタン選択による質問入力にも、IBM Watson※の高い言語処理能力を生かした自然 言語での質問にも対応、円滑なコミュニケーションが可能だ。API 連携により、ユーザー が持つ他システムに情報を受け渡したり、逆に他システムから得た情報を出力したりでき、 チャットボットを通じて住所変更や情報システム部門への作業依頼などの業務を自動で処 理しているユーザー企業もいる。また、FAQ 情報の学習や、目的に沿った会話設計などに ついては、アイアクトが豊富なノウハウに基づいた導入・構築・運用支援サービスを提供 しており、ユーザー企業の負担軽減にも配慮されている。
人工知能・コグニティブソリューション部の部門長で同社取締役 CTO の西原中也氏は、事 業について以下のように説明する。
「IBM Watson を活用したシステム開発は、2016 年 3 月に新規事業として開始したものです。 当初はプロジェクトごとに個別導入しており、ハウステンボスの『変なレストラン』における 会話ロボット、楽天の社内外向け各 FAQ のチャットボット化、鉄道最大手のコールセンター システムなどに用いました。商品化したのは 2017 年で、Cogmo Attend のほか、AI ファイ ル検索サービス『Cogmo Search』をリリースし、現在では全社売上の 4 分の 1 程度を AI・ コグニティブ分野の事業が占めるほどに成長しています」
AI チャットボットに検索を連携させることで広がる可能性と有効性
西原氏が率いる人工知能・コグニティブソリューション部は、Cogmo Attend に代表される サービスの企画・開発から、顧客への提案・販売、導入や運用支援など、関連業務をす べて手掛ける。顧客企業が抱える多種多様な課題を解決するため、サービスラインアップ を段階的に拡充してきた。その一つが、AI チャットボットと検索の連携だ。
アイアクトでは、ユーザーの質問に対して Cogmo Attend による自動応答と伴に、Cogmo Search などによる検索結果を表示させるという発想が早期からあった。AI チャットボットは 質問への回答が得意ではあるものの、何千、何万という質問に的確に答えられるようにす るには、学習や運用の負荷が非常に高い。一方、企業にはマニュアルや FAQ、業務ノウハ ウを記したファイルなどの情報資産が膨大に存在する。ユーザーが質問をしたとき、それら 情報資産からの検索結果をチャットボットに表示し、かつ、よく聞かれる質問には即座に自 動応答、ユーザーの「回答が見つからない」状態をなくし、チャットボット利用満足度と自己 解決力を向上させる。AI と既存資産のもつ価値を融合活用しようという考えだ。
「例えば、ユーザーが『Watson の導入に関する情報』を求めて『Watson の導入』と質問した 場合、Watson そのものについての情報を回答してしまいがちです。こういった場面で、ファ イルサーバーなどに蓄積された情報からの検索結果を回答するようになれば、ユーザーの自 己解決を促し、より役立つものになるでしょう。学習量の適正化と、企業が持っているデジタ ル資産の活用という 2 つの目的から、連携ニーズが高まっていたのです」と西原氏は説明する。
こうして Cogmo Attend と検索ツールやサービスとの連携ソリューションの開発が開始され、 2018 年にはオンプレミスのファイルサーバー等を対象にしたソリューション「Cogmo Attend with ファイルめがね」をリリース。また Cogmo Attend と Cogmo Search との連携ソリュー ションも実現し、マニュアルなどの特定のページを回答することも可能になった。
「AI チャットボットと検索の連携ソリューションを最初に採用したユーザーは、電力会社のあ る部署でした。送電設備のための土地取得を行う部署だけに、その業務で用いる資料は関 連する法律から、地域社会との関わり方などまで幅広く、全て合計すると 5,000 ページに もなるほどです。それらを Cogmo Attend から検索できるようにしたことで、手動で調べて いたころに比べると先輩などへの質問に要する時間が削減された上に、業務精度も向上し ました」(西原氏)
しかし最近、企業の IT 環境の変化から、これら 2 種類の連携ソリューションでは対応できない局面が目立つようになってきた。それは、SharePoint や box、GoogleDrive といった、
Elasticsearchには豊富なモジュールやアプリ、 高い開発力があります。当社のAIチャットボット にElasticのプロダクトを組み合わせれば、情報 の入口・出口をWebからメッセージコミュニケ ーションへ置き換えることができ、企業のデジタ ルトランスフォーメーション(DX)にもつながると 期待しています
クラウドサービス上でのファイル検索ニーズだ。これらのサービスには API が用意されてい るため、理屈の上では Cogmo Attend からの連携は容易に行えるはずだが、実際に連携 機能を実装する上では課題があり、Cogmo Attend 単体では現実的に実現できなかった。
「一つは権限管理の問題です。Cogmo Attend はログインを前提としない設計になっているた め、権限管理が必要な対象への連携は開発負荷が高くなってしまいます。もう一つは API コー ル数の制約です。一般的な公開 API に対しては、1 日あたり 2,000 件などの上限が設けられ ており、この制限を緩和するには上位のパートナー契約をする必要があります」(西原氏)
Elasticsearch との連携がユーザー課題にフィット、事業的にも大きな成果
AI チャットボットを経由してクラウド上のファイルを検索したいとのニーズは、近年のクラウ ドシフト傾向を受けて増え続けていたが、特に 2020 年になってから急増した。新型コロナ ウイルス感染対策として在宅勤務環境を整備する過程で、ファイルサーバーのクラウド移行 を急いだ企業が多いと考えられる。また在宅勤務に関連して、AI チャットボットを従業員の サポートに活用したいという問い合わせも多く寄せられるようになった。
急増するニーズに応えるべく、人工知能・コグニティブソリューション部では Cogmo Attend と連携させるクラウド対応の検索ソリューションを探すことにした。
「いくつかの候補の中から、我々が選んだのが Elasticsearch です。以前から Cogmo Attend 等のログの管理・検索に使っていましたが、調べてみると Elasticsearch には豊富 なモジュールやアプリがある上に、日本法人もあります。高い開発力を有していることも知っ ていましたし、ターゲット顧客像も近いと考えられることから、単なる技術パートナーとい うだけでなく、マーケティングや販売なども含む、幅広い協力関係を期待して、相談を持ち 掛けました」(西原氏)
これをきっかけに両社の協力が始まり、2021 年 7 月には Cogmo Attend と Elasticsearch の連携ソリューションが実現することになった。Cogmo Attend の検索連携ソリューションと しては、3 つめの選択肢となる。
「情報資産を抱える企業にとって必ずや有効な手段であるという当社の意向に対し、 Elasticsearch 日本法人が協力してくれたおかげで実現できました。いろいろと無理難題を言っ たこともありますが、Elastic 側も我々の思いを酌んで対応してくれたおかげです」(西原氏)
Elasticsearch との連携ソリューションは、それまでの Cogmo Attend 検索連携でカバーで きなかった新たな領域をカバーする形となり、西原氏は早くも手応えを感じているようだ。
「クラウドストレージの得意分野は、共有や協業。最新の情報を共有することには適してい ますが、その一方で過去の情報から必要なものを探し出して活用することが得意ではありま せん。また、コロナ禍で急ぎクラウドへ移行した企業の中には、業務の流れを整理しきれ ていなかったケースもあります。そういったユーザー企業が、クラウドへ移って半年か 1 年 ほど経って、情報が埋もれていることに気付くようになってきたのでしょう。Cogmo Attend と Elasticsearch の連携は、このストック情報の活用というユーザー課題にフィットしたこと で注目されているようです。もちろん当社にとっても、これまで対応できなかったニーズに応 えられるようになったという点で、Elasticsearch との連携は大きな意味を持ちます」と西原 氏は評価する。
AI チャット+検索が、Web からメッセージコミュニケーションへの転換点に
今回の連携ソリューションに興味を示している企業には、例えば数千名以上の従業員を擁 する製造業や、インフラ系企業などがあると西原氏は話す。
「特に製造業などはエビデンスありきの業界で、他より業務で扱う書類の数が多い傾向 があります。急遽クラウド化したこともあって書類の管理が困難になっていると聞きます。 Cogmo Attend と Elasticsearch の連携は、このような課題を抱える企業に対するデジタル
トランスフォーメーション(DX)にもつながると期待しています」(西原氏)
例えば、Cogmo Attend の API 連携を活用することで、チャットで受け付けた情報を社内シ ステムに登録するといった処理も自動化することが可能だ。さまざまな業務に応用できる上 に、PC だけでなくスマートフォン等でも利用しやすいチャットを窓口とすることで、端末や 場所を問わない対応も実現する。また逆に、外部システムから受け付けたアラート情報を Cogmo Attend 経由でチャットに通知することも可能だ。
「以前、鉄道会社のプロジェクトでシステム運用の DX の PoC をしました。既存の運用監 視システムで重要インフラの障害情報を監視し、検知した障害情報を Cogmo Attend がビ ジネスチャットに伝えます。合わせて AI 検索を用いて過去の似たような障害対応内容も参 考に表示、さらにビジネスチャットで人がやってほしいことを入力指示することで、Cogmo Attend を通じて再起動などのシステム操作まで検証しました。ビジネスチャットですから、 社員はセキュリティルームへ移動することなく、障害の把握や迅速な対応が可能になりま した。この PoC は Elasticsearch との連携より前のことですが、Elastic Observability を 使えばアラート検知ができますし、過去の障害対応情報の検索も含め、ほとんどの機能を Cogmo Attend と Elastic のプロダクトで実現できそうです」(西原氏)
さらに西原氏は、Web サイトのトップページの検索窓の代わりにチャットボットを使うことに よる可能性について言及する。
「Web サイトのトップページでは、検索窓の配置をどこにするかといった議論もありますが、 チャットボットに検索機能を持たせれば検索窓の代わりになります。さらに、チャットボット がさまざまなシステムへ連携していくことで、Web でなくチャットがさまざまな情報の入口・ 出口になっていく可能性があり、Web サイトを置きかえることもできます。今後は、試行錯 誤しながら、そういった姿を追求していこうと考えています」
※ IBM、IBM Watson、Watson は、世界の多くの国で登録された International Business Machines Corporation の 商標です。