シームレスな顧客エクスペリエンス
購入レシートの提示を問わず、返品手続きの簡易化を実現。サービスエクスペリエンスが向上し、利用者にも好評。
不正による被害リスクの低減
担当者が適正な返品であるか確認できるようになり、不正行為防止の効果を挙げている。
ピーク時のパフォーマンス最適化
1年の中で小売業界がピークを迎えるシーズンにも、Elasticsearch Serviceが最適なパフォーマンスとシームレスなスケールを実現。
開発者発の取り組み
開発者が中心となって進めたプロジェクトの成功を受けて、経営部門でもElastic Stackの活用が進展している。
ウェアハウスについて
ニュージーランド最大の小売ストア、ウェアハウスは1982年に創業されました。従来の小売りモデルの刷新に挑み、日用品や家電、アパレルなどの一般消費財をディスカウントで販売しています。同社は新しいテクノロジーを早期に導入することで、小売業界で先進的な地位を保ち続けています。低コスト配送の手法におけるイノベーターとして、現在まで高い価格競争力を維持してきました。
また長年、小売店として拡大と成長を続けています。Warehouse Stationery、Torpedo7、Noel Leemingなどの名称で店舗ブランドを多様化させつつ、ブランド全体で「ウェアハウス・グループ」として広く認知されています。250を超える店舗に毎週200万人以上の買い物客が訪れ、ニュージーランドで暮らす人々の日常の一部となっています。
検索の力で挑む不正行為との戦い
ウェアハウスは、正規購入であると従業員が確認できる場合、利用客がレシートを提示しなくても12か月間返金を受けられるという返品ポリシーを掲げています。同社の返品ポリシーは顧客からの支持獲得には貢献してきましたが、店舗が不正行為のリスクにさらされる側面もありました。従来の返品処理方法では、同じ商品を複数回の返品する顧客にどう対応するか、どのように返品を防止するか、という問題が生じるためです。ウェアハウスにとってこの問題は大きなジレンマでした。正当な返品か確認するより良い方法を模索していた同社が、検索ソリューションとして見つけたのがElasticsearchでした。
数か月の導入期間を経て、現在Elasticsearchはウェアハウスの93以上の店舗に実装されています。1,500台以上のPOS機器と200台のサービスデスクコンピューターでは、数年分の取引データを検索可能です。ウェアハウスの担当チームは、すばやく取引を検索・検証し、顧客が支払った額を正確に返金できるようになりました。返品処理のスムーズ化は店舗と顧客の双方に大きなメリットとなり、不正リスクの撲滅に確かな成果を挙げています。
ウェアハウスのElasticsearchストーリー
ITチームによる新たな挑戦
ウェアハウスでは2012年より一般的な手法で返品を検証する取り組みを開始しており、各店舗が独自のプロセスを採用していました。たとえばクレジットカードの末尾4ケタを目視と、販売の電子記録から検索するといったプロセスです。しかし、この方法で記録を検索すれば15分はかかる上、顧客が来店した店舗の販売データしか検索することはできません。ウェアハウスは常に最高のカスタマーエクスペリエンスを追求しており、もっと革新的なアプローチが求められていることは明らかでした。この課題に挑んだのが、ウェアハウスグループでインストアシステムとアプリケーションの開発責任者を務めるトレバー・ジョーンズ氏です。
ジョーンズ氏が率いるチームは、店舗従業員が全販売データを横断してより詳しく検索を実行できるような機能の実現を目指しました。彼のチームでは、以前製品検索アプリを開発した際にApache Solrを使った経験がありました。それは店舗のサーバーを横断して検索できるようにするというソリューションで、開発プロジェクトとしては小規模かつ局所的なものでした。それでも、同チームがLuceneベースのアプローチがもつすぐれた応答性を認識する十分なきっかけとなりました。一方で、新たなプロジェクトは全店舗を横断し、レシートから完全なデータをインデックスするプロセスを伴います。データ上の要件を満たすには、簡単にスケールできるソリューションを開発する必要がありました。
ジョーンズ氏は当時について、次のように振り返ります。「返品処理をスムーズにするには、数十億行のデータを非常に高速に検索できるソリューションが必要でした。どう考えてもElasticsearch以外に候補は見あたりませんでした。実際、オープンソースなのですぐに着手できましたし、クラスターを立ち上げた段階で、必要な挙動をすべて実行できることが確認できました。つまり、立ち上げ時点でプロジェクトはもうほぼ完成していたんです」
確かな返品を、スムーズに
ウェアハウスの利用客は同店に素晴らしい返品ポリシーがあることをよく理解した上で、地域の店舗でディスカウント価格のショッピングを楽しんでいます。しかし従来の返品処理方法は、結果として顧客に購入レシートを提示しない返品を促しており、処理に長い時間がかかることで顧客満足度にも良い影響がありませんでした。その他に、ごく一部の客がウェアハウスで購入すらしていない商品の返品を申し立てたり、あるいは購入した以上の数量の返品を申請するという問題もありました。すなわち、購入商品や、別の場所で盗んだ商品をウェアハウスのさまざまな店舗に何度も持ちんで返金を受けている可能性もありました。同社では、こうした不正行為の被害を受けるリスクを排除したいと考えました。
不正な返品の防止策を導入したとしても、お客様に不便をかけることはできません。そして、その2つを両立するために使われたのがElasticsearchです。Elasticsearchを使ったソリューションでは、返品申請された商品が確かに販売されていること、および、まだ一度も返品が行われていない商品であることを、従業員が販売データを検索して検証することができます。
たとえばあるお客様がトースターを返品しにきたとします。購入時のレシートの提示があるかどうかにかかわらず、従業員は簡単にトースターの販売記録を検索することができ、また同時に購入された商品も検索できます。さらに検索結果を日時や場所で絞り込むことにより、該当のデータを見つけることができます。従業員が該当のレシートからトースターの販売額を調べ、まだ一度も返品が行われていないことを確認すれば、手続きは完了です。Elasticsearchのスピードと入力と同時の自動検索機能のおかげで、このプロセス全体にはわずか数秒しかかかりません。
利用客からは、すぐれたカスタマーサービスに対する感謝の手紙も届きました。ウェアハウスで購入した母の日のギフトを受け取り、返品を利用したという女性からでした。この女性は同じ商品をすでに持っており、返品を考えたものの、息子さんはレシートを紛失していたことを手紙に綴っていました。「返品は可能ですかと尋ねたら、『購入日さえ教えてくれればこちらで調べるので大丈夫です』と答えてくれました。別のものと交換することも、返金もできると言うんです。そこで私はそれより少しだけ高額な商品を買って、お互いにハッピーな結末になりました。素晴らしいカスタマーサービスに感謝しています」
クリスマス商戦リリースの"勝算"
ウェアハウスで開発マネージャーを務めるユアン・ハーベスト氏は以前にElasticのプロダクトを使用した経験があり、そのメリットを理解していたと言います。ハーベスト氏はプロジェクトのリーダーとして概念検証を実施し、この"レシート検証"のユースケースの解決がもたらすメリットをチームに説明しました。Elasticsearchを使ったテストケースの立ち上げに成功した後、同氏はさらにデプロイをクラウドに移す作業指揮も執りました。まずAWSでセルフホスティングを実施し、次にチームと共にウェアハウスの店舗全体への水平投入を進めました。全店舗でのリリースを完了したのは2018年後半です。
ハーベスト氏は次のように語っています。「Elasticのソリューションがうまく動作するという自信はありました。しかし、実際に店頭で一斉に運用が始まった後どうなるかは想像できませんでした。店舗運用がクリスマスの直前だったこともあり、念のためElasticサブスクリプションを購入して、サポートを活用できる体制を整えました。また、チームが開発に注力している間、運用を任せたいという理由でElasticsearch Serviceも利用しました」
"光"速検索&スケーラブル
レシートデータを確認する機能は、ウェアハウスが配置する1,500台のPOS機器と200台のサービスデスクコンピューターすべてに実装する必要がありました。運用開始に向け、履歴データベースから30億件の販売データを抽出して、一般的なJSONドキュメントモデルになるよう正規化した上でElasticsearchインデックスにフィードする作業が実施されました。同時に店頭のPOS機器は、今後生じる販売データをJSONモデルに変換し、直接Elasticsearchにフィードできるよう設定されました。
こうして、POS機器とサービスデスクのコンピューターからアプリを使い、3テラバイトものデータを簡単に、瞬時に検索することが可能になりました。検索リクエストへの応答時間は平均で20 - 30ミリ秒と、運用開始時から素晴らしい結果を出しました。それまで返品処理に15分かかっていたことを考えると、大きな進化です。ところがクリスマスシーズンが近づくにつれて販売数が大幅に増加し、Elasticsearchに投入されるデータ量も飛躍的に増えました。システムとしてはこの負荷の増加に耐えることが可能でしたが、クエリへの応答時間が最長で8 - 10秒程度へと落ち込んだのです。
この問題が明らかになるとすぐ、ハーベスト氏はElasticのサポート協力を得て解決に乗り出しました。Elasticのプロダクトエキスパートによる診断は、クリスマスシーズンに投入されるデータ量に対して、クラスターが最適化されていないというものでした。リソースの追加が必要でしたが、Elasticsearch Serviceを利用していたことで簡単にプロビジョニングできました。必要な作業は、適切な構成を算出するだけです。
Elasticsearch Serviceを選んだ理由の1つが、スケールのフレキシブルさです。ボタンをいくつかクリックするだけで想定パフォーマンスを下回っていたシステムが回復し、ふたたび光速でレシートを検索できるようになりました。
ウェアハウスでは、現在と将来にわたるデータ負荷を想定してクラスターの最適化を実施しました。Webストアでの購入データも簡単にElasticsearchに投入できることで、お客様は店舗購入か、オンラインストア購入かを問わず、シームレスに返品手続きを受けることができます。こうした小さな最適化の他にデータソースの追加なども実施されていますが、ジョーンズ氏は運用開始以来、ソリューションそのものへの変更は行っていないと話します。
最初に開発したものがそのまま稼働している状態です。Elasticsearch Serviceなら、スケールの必要があるときも水道の蛇口をひねるくらい簡単です。なにも心配する必要はありません。
新たなユースケースへ
ウェアハウスのモバイルチームはElasticsearchを使い、従来から利用客に提供されていたモバイルアプリに新機能を追加しました。ユーザーが購入レシートをスキャンして保存することができる機能です。この機能拡張で紙のレシートへの依存が大幅に低下し、利用客のエクスペリエンスも大幅に向上しました。さらに、ウェアハウスが利用客の購入傾向を特定し、より有効なプロモーションを顧客に提供する上でも役立っています。ユーザーが特定の商品を気に入った場合は、アプリに保存されたレシートをタップするだけでオンラインストアの「同じ商品をもう一度買う」画面に移動することができます。現在ITチームでは、利用客がスマートフォンのアプリをスキャンして会計を行い、オンラインアカウントに購入レシートをリンクさせる機能の実装を予定しています。Elasticプロダクトを使ったソリューションで、レシートを印刷するより早くプロセスを実施できると見込んでいます。
その他にも、POS機器から取得したデータを活用し、Kibanaで販売効率を分析できるようにするプロジェクトが進行中です。
ハーベスト氏とジョーンズ氏が宣伝役となり、ウェアハウスの経営部門でもElasticプロダクトの活用が加速しました。現在はカスタマーエクスペリエンスや顧客満足度の向上をもたらす、イノベーティブな取り組みが進んでいます。
返品プロジェクトの成功は、社内の多くの人に注目されました。今はみんな、「ほかのアプリでElasticプロダクトをどう活用できるか」に関心を寄せています。Elasticが提供するトレーニングコースの内容は素晴らしいものです。Elastic Stackが動作する仕組みを深く理解でき、今後Elastic Stackを各種のアプリに使用する方法や、課題の解決に活用する方法を考える上で大いに役立ちます。
返品を装う不正行為の撲滅
技術面での成功や直近6か月でのユースケースの拡大以上に、ウェアハウスにとって大きな意義をもたらしたのは不正行為の顕著な減少でした。確実に利用客が購入した商品の返金を実施することで収益面への貢献がありました。さらに返品プロセスが大幅に迅速化し、利用客と従業員の双方にとって簡単になりました。
ジョーンズ氏は次のように語ります。「以前はお客様に多数の質問をした上、レジに15分も待たせてレシートを探しに行かなければなりませんでした。もうそんな煩雑さも、不正返品のリスクもありません。大きく変わりました」
ウェアハウスグループのクラスター設定
- クラスター運用クラスター×2
- ノード10
- ホスティング環境Elastic Cloud
- ドキュメント27億
- 総データサイズ3 TB
- 投入レート(1日あたり)150千(最大200/秒)
- インデックス30
- クエリレート45/秒
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