対話型AIとは?

対話型AIの定義

対話型AIを利用すると、人間と機械との対話をシミュレートできます。自然言語処理(NLP)機械学習(ML)を組み合わせた対話型AIは、データを基に発声やテキスト入力を受け取ってから、発声やテキスト出力を生成し、ユーザーと対話を交わすというのが基本です。チャットボットやバーチャルAIアシスタント、音声起動アシスタントなどが対話型AIの例として挙げられます。

対話型AIは新しい技術だと思っている方もいるかもしれませんが、ジョセフ・ワイゼンバウムが1960年代半ばに開発したチャットボット「ELIZA」が原初です1。ELIZAは、NLPを使用して入力のパターンを照合し、回答を生成する世界初のロボット心理療法士でした。ごく基本的なレベルの対話型AIでしたが、パターン認識と予測分析を行う現代のAIと同じような仕組みでした。ですが大きな違いがあります。ELIZAは、プログラムされたスクリプト以外のことはできませんでした。現在では、大規模言語モデル(LLM)の開発、演算処理能力の向上、データの可用性、MLにより、対話型AIは継続的に「学習」しながら、膨大な量のデータを基にクエリに応答できるようになっています。その結果、現代の対話型AIは、バーチャルアシスタントからカスタマーサービス用チャットボット、自動サポートシステムまで、さまざまな用途に使用されています。

対話型AIにより、誰もが情報や商品、サービスにアクセスできるようになり、カスタマーエクスペリエンスも向上します。この技術を誰もが活用できるようにするためには(コーディングの知識がなくてもクエリに対する回答を確認できるようにするためには)、自然言語による会話を行える機能が必要です。ビジネス面では、対話型AIは従業員の負担を軽減し、物事を学びやすくするため、業務効率アップにつながります。

対話型AIの主な構成要素

対話型AIは、自然言語処理(NLP)と機械学習アルゴリズム(ML)、発話認識、ダイアログ管理システムで構成されます。

自然言語処理

自然言語処理は、トークン化や品詞のタグ付け、固有表現抽出、センチメント分析により、人間の言語を処理し、人間の言語でコミュニケーションを行うための技術です。こうした技術は計算言語学を基盤として、データ分析によって言語や発話を分解、分析します。字句解析によってデータ値がクエリの文字に割り当てられ、文法解析によってクエリの単語の順番が特定され、タグ付けが行われます。その後、構文解析により、構文の値に基づいて単語の意味が特定されます。

たとえば、「I'm amazed at how light this laptop feels(このノートPCの軽さに驚きました)」という文章の場合は、構文解析によって、「light」という単語は「this laptop」を説明する形容詞であると特定されます。意味解析では、構文の出力を基にコンテキストの中での単語の意味を見きわめ、クエリのセンチメントや意図を理解します。

前述の例で言うと、「light」は重量、色合い、または内容の薄さを指している可能性がありますが、構文のコンテキストでは、「amazed」と「feels」も合わせて考慮され、ポジティブなセンチメントが提案されます。意味解析は、「light」がネガティブな意味合いではなく、そのノートPCの運びやすさに対する賛辞を伝えるための言葉と解釈します。

対話型AIは、このような仕組みで対話を演出します。

機械学習

機械学習は、データとアルゴリズムを使用して人間の学習能力を再現します。機械学習アルゴリズムは、トレーニングに使用されたデータに基づいて予測を導き出します。また、事前定義されたパラメーターを基準にその予測の質を評価して、意思決定プロセスを更新または最適化し、将来の予測の精度を高めます。

機械学習モデルのトレーニング方法には、教師あり、半教師あり、教師なしの3種類があります。教師あり学習では、ラベル付きのデータセットを使用して、アルゴリズムによる予測のトレーニングを行います。教師なしの機械学習モデルは、ラベルなしのデータを使用してトレーニングが行われるため、アルゴリズムは人間が介入しなくてもパターンを特定し、データを分類できるようになります。半教師あり学習は、教師ありと教師なしのモデルを組み合わせたもので、小規模なラベル付きデータセットから学習した内容を、より大規模なラベルなしデータセットに適用します。

機械学習は、推奨エンジンやバーチャルアシスタント、発話認識技術の用途で、NLPと併用されています。

発話認識

音声文字変換とも呼ばれる発話認識は、発話をテキストに変換する機能のことです。発話認識では、NLPとMLアルゴリズムを利用して音声信号の文法、構文、構造、構成を認識し、言語の重み付けや話者のラベル付け、音響トレーニング、不適切表現のフィルタリング技術によってモデルのトレーニングを行います。

言語の重み付けにより、繰り返し出現する語句が分類され、認識精度が上がります。発話認識は、発話をテキストに変換する際に、複数の参加者を区別してラベルを付けることもできます(話者のラベル付け)。音響トレーニングを行うことで、認識ソフトウェアがさまざまな環境音レベルや音声属性など、多様な音質に適応できるようになります。不適切表現のフィルタリングは、不適切な文言を特定し、文字起こしから問題のある表現を除去できます。この技術は文字起こしサービスやディクテーションアプリケーションでよく使われています。

ダイアログ管理システム

ダイアログ管理システムは、機械とユーザーの対話を、コンテキストを考慮して解釈します。ダイアログ管理システムは、発話とテキストの両方のコンテキストで、機械が人間のユーザーの言葉を「理解」して「コミュニケーションをとる」ために実行する一連のプロセスを表します。たとえば、あるユーザーが航空券を予約するために、旅券予約のチャットボットに問い合わせたとします。その場合、ボットは次のようにフォローアップの質問を交えて応答します。

ユーザー:航空券を予約したいと思っています。
ボット:お問い合わせありがとうございます。了解しました。お手伝いいたします。出発地の都市はどちらですか?
ユーザー:モントリオールです。
ボット:ではYUL空港が出発地となります。目的地はどこでしょうか?
ユーザー:パリです。
ボット:承知しました。YUL空港発、CDG空港着となります。

ポリシーの学習とフィードバックメカニズムによってコンテキストに合った正確な回答を返すダイアログ管理システムが、この対話の土台になっています。リクエストを特定し、必要となる次のステップに即して、自然な形で対話を続けます。効果的なダイアログ管理により、AIが会話のキャッチボールを処理し、コンテキストの切り替えにも対応できるようになります。

対話型AIの重要性

対話型AIによって、ユーザーが日常の中でテクノロジーを効果的に利用する方法が変わりました。その重要性は、次のような利点から見て取ることができます。

  • 業務効率の向上:バーチャルアシスタントやセマンティック検索アプリケーションなどの対話型AIのおかげで、従業員はすばやく答えを見つけ、タスクを自動化して、より複雑で創造性が求められる作業に集中できるようになります。時間のかかる細かな作業に費やす時間が減るため、生産性と業務効率が飛躍的に向上します。
  • カスタマーサポートの改善:対話型AIはパーソナライズされた回答を瞬時に提示します。これにより、24時間365日対応可能になり、待ち時間が短縮され、さまざまな問い合わせに効率よく対応できるため、顧客満足度と顧客エンゲージメントが向上します。よくある問題に迅速かつ正確に対処できるため、人間のエージェントはより複雑な作業に集中できるようになります。これにより、効果的で対応力の高いカスタマーサポートシステムを構築し、顧客との関係を強化して、長期的なロイヤルティを高めることができます。
  • スケーラビリティの向上:対話型AIは複数のユーザーに同時に対応できるため、組織が対処できる顧客とのやり取りの量を増やすことができます。やり取りを増やせるスケーラビリティがあるということは、プロセスの効率化と対応時間の短縮、業務コストの削減によって、業務効率も高められるということです。これにより、組織はより少ないリソースでより多くの顧客にサービスを提供し、顧客満足度を高めることができます。顧客側も担当者を待たずに問題を解決できるようになるためです。

つまり、対話型AIの重要性は費用対効果の高さにあります。中小規模の企業の場合は、年中無休で大量のやり取りを同時に処理できるという対話型AIの機能を活かすことで、トレーニングや給与関連の事業コストを大幅に削減できます。

対話型AIと生成AIは同じ?

対話型AIは、生成AIの具体的な応用例の1つです。ただ、両者は目的や出力、トレーニング方法が異なる場合があります。その違いは、対話型AIは予測によって双方向のやり取りを継続、維持していくのに対し、生成AIはプロンプトを基にコンテンツを生成するという点です。

対話型AIはユーザーと対話する際に、クエリの分析やナレッジベース(検索拡張生成(RAG)によって取得した、またはChatGPTのようにインターネット全体から取得した、企業に固有のローカルナレッジベース)の解析、パターン認識によって回答を生成します。

対話型AIが生成する出力は予測ですが、同じ原理によって生成AIは新しいコンテンツを「作成」します。これにより、対話型AIも生成AIも、コンテキストに合った回答を生成できます。

生成AIについてさらに詳しく

対話型AIのユースケースと例

「Hey、Siri」やバーチャルアシスタント、銀行アプリのチャットボットなど、対話型AIはさまざまな業界で活用されています。一般的なユースケースは次のとおりです。

カスタマーサービスおよびサポート

対話型AIは、カスタマーサービスおよびサポート用アプリケーションでよく使用されており、主にチャットボットとしてよくあるクエリに対応し、いくつかのタスクを実行します。チャットボットは、配送や請求、返品ポリシーなどに関連するよくある質問に回答できます。また、ショッピングアシスタントとしてオンラインサポートを提供し、検索履歴や過去の購入に基づいてパーソナライズしたおすすめ商品を提案することもできます。

医療

対話型AIを医療に活用すると、患者エンゲージメントが改善され、医療提供者は管理業務に伴う負担を解消できます。一部の診療所で、患者と医師のやり取りの文字起こしを作成したり、常に最新情報を把握したり、担当の患者に関する詳細なメモを取ったりするために、発話認識技術が利用されています。バーチャルアシスタントは、予約の日時を設定したり、医療情報を提供したり、服薬アドヒアランスのリマインダーを実行したりすることもできます。

セキュリティとオブザーバビリティ

セキュリティオブザーバビリティ関連のあらゆるテクノロジースタックで、バーチャルアシスタントが求められる傾向が強まっています。バーチャルアシスタントは、検索テクノロジーを活用し、ローカルナレッジバンクに接続して、データ分析を利用することで、ITユーザーがさまざまなコンテキストの質問に回答したり、専門的な知識やデータにアクセスしたり、特定のタスクを自動化したりできるよう支援します。

eコマース

eコマース分野では、オンラインユーザーにカスタマーサポートを提供するために、対話型AIが広く利用されています。対話型AIは、チャットボットやバーチャルアシスタントとして、よくある質問に対応したり、パーソナライズした推奨事項を提示したりすることで、人間のカスタマーサービス担当者を補佐しています。対話型AIは24時間365日稼働できるため、カスタマーエクスペリエンスが改善され、売り上げが増加する可能性もあります。

教育とトレーニング

教育のコンテキストでは、パーソナライズした指導を実施したり、学生からの質問に答えたり、インタラクティブな学習体験を実現したりするために対話型AIが利用されています。学生に補足資料を提供し、それが教育者の助けにもなっています。

チャットボットと対話型AIの違いとは?

チャットボットは対話型AIの一種ですが、対話型AIの応用例の1つにすぎません。対話型AIは、音声アシスタントや文字音声変換(TTS)、音声文字変換(STT)技術など、各種のNLPアプリケーションとMLアプリケーションの総称です。

チャットボットは、特定のタスクを処理し、事前定義された回答を返せるように、ルールベースのアルゴリズムを使用してトレーニングが実施されます。そのため、シンプルなやり取りに使用され、複雑な対話や微妙なニュアンスを含む対話にはうまく対処できないことがあります。

音声アシスタントはより高度なチャットボットであり、発話認識技術によってユーザーとやり取りします。音声アシスタントの利点は、ユーザーが料理中や掃除中、運転中などであっても、ハンズフリーで利用できて、さまざまなコンテキストで多種多様なコマンドを実行できるところにあります。

ユーザーとのやり取りを理解し、応答するという音声アシスタントの機能を支えているのは、TTS技術とSTT技術です。音声アシスタントは「Hey、Siri」などのプロンプトを聞き取る際に、STTによって発話を識別して理解します。「はい」と応答する際には、TTSを使用して「学習した」テキストの回答を音声の回答に変換する必要があります。

センチメント分析など、他のテクノロジーも対話型AIには組み込まれています。チャットボットが共感を示しながら応答し、効果的なカスタマーサービスを提供するためには、場合によってはネガティブな意味合いの文言を認識する必要があります。

対話型AIの開発と実装

対話型AIの開発と実装は、その対話型AIがどのようなコンテキストで必要になるのか、どのような目的を達成する必要があるのかを特定することから始まります。それらの決定を基に、効果的な会話のフローを設計し、適切なプラットフォームを選択して、成果を測るための指標を確立します。

クラウドベースのソリューションはスケーラビリティと柔軟性に優れており、大規模なオンプレミスのインフラストラクチャは不要です。対話型AIアプリケーションをクラウドプラットフォームにホストすることで、必要に応じて拡張できる強力なAIツールを利用できます。デプロイもその方が非常に簡単です。

会話のフローを設計する

会話のフローを設計するためには、ユーザージャーニーを明確化し、よくある質問(FAQ)を活用します。FAQは対話型AIツール開発の基盤になり、ユーザージャーニーは、開発の際に優先すべきダイアログプロンプトを見きわめる一助になります。まずは小規模から始めることが大事です。そうすることで、ユースケースをテストし、自社ブランドやニーズに合わせて出力のトーン(親しみやすさや中立性など)を調整できます。

適切なプラットフォームを選択する

適切な対話型AIプラットフォームを選ぶには、まず明確な目的を設定する必要があります。カスタマーサービス用チャットボットなのか、多言語対応の必要はあるのか、自動化機能を求めているのかといった点を考えます。そうした点を明確にすれば、さまざまなプラットフォームの機能を特定し、トレーニング済みモデルでテストを実施して、目的に合っているかを確認できます。

プラットフォームを現在のシステムにシームレスに統合できるかを考慮し、人間が関与する機能(人間の介入がどの程度必要か、調整は可能か)を評価します。適切なプラットフォームを選択するためには、どの程度のカスタマイズが必要かを考えることも大事です。

成果指標を確立する

実装が完了したら、目的に合わせて成果指標を確立します。そうした成果指標は、ユーザーの満足度や回答の正確性、回答の速度、やり取りの完了率を測るものにする必要があります。

データのプライバシーとセキュリティを確保する

効果的な対話型AIを開発するためには、データのプライバシーとセキュリティを確保することが不可欠です。データのプライバシーとセキュリティ関連の対策が組み込まれているプラットフォームを選択し、実装プロセスの中でデータのプライバシーとセキュリティのガイドラインを確立することで、コンプライアンスや規制の基準を満たすことができます。信頼性を維持して法的な問題を防止するためには、それが欠かせません。

対話型AIの課題

NLPのMLの発展により、非常に高度な対話型AIアプリケーションが生まれていますが、このテクノロジーには依然として次のような課題があります。

  • ユーザーによる不明瞭な入力や曖昧な入力を理解することが、対話型AIの大きな課題になっています。トーンや皮肉、タイプミス、構文の間違いなどがあると、AIが混乱し、不適切、不正確、または不十分な回答が返される場合があります。
  • アクセントや違う言語への対応が、音声認識ソフトウェアや発話認識ソフトウェアの課題になる場合もあります。対話型AIはさまざまなデータを使用してトレーニングを施す必要がありますが、それには大量のリソースを要します。
  • 信頼性と正確性を確保することも対話型AIの課題です。組織はハルシネーションを防ぐため、対話型AIツールの出力の質を審査、評価するリソースを配備する必要があります。これには多大な時間とリソースを要する場合があります。

また、対話型AIを使用する際の倫理的な問題も重要な課題です。対話型AIを開発する際は、偏見のない回答を返すようにして、ユーザーのプライバシーを守ることが不可欠です。開発者は、こうした問題に対処して公平で信頼できるシステムを構築する必要があります。

対話型AIとElastic

Elasticは、生成AIを活用して自然言語対応のAI Assistantを強化し、検出から問題解決に至るまで、SREやセキュリティアナリストを支援しています。対話型AIを利用しているAI Assistantは、プロセスを自動化、合理化する補佐役として機能するため、エンジニアやアナリストは日常的なタスクの負担がなくなり、より複雑な問題に集中できるようになっています。

対話型AIとElasticの詳細